その29 「念入れしぐさ」
念には念を入れよ。
出かける前にアイロンの電源は切ったか、
寝るときは玄関の鍵をきちんとかったか。
年寄りによく言われた。
しかし、うっかりすると、忘れている。
江戸の商家では
主の一日の最後の仕事がこれだった。
戸締まりはできているか。
夜遊びで帰りそびれている従業員はいないか。
かまどの火はしっかり始末ができているか。
いったん火事を出せば身の破滅である。
江戸の町では3,4年に一度、大火があった。
火事を出しても大変、もらっても大変だった。
1699年創業の鰹節専門店「にんべん」では
いち早く土蔵づくりの店にした。
類焼を避けるためだ。
もちろん、火の用心も人一倍した。
おかげで約200年間、火事に遭わなかった。
そのせいか、噂が立った。
また、実際に、事件が起きた。
年の瀬、門松を立てると、
通りすがりの人が
松を一本、また一本、抜いていってしまう。
自分もあやかって火事に遭わぬように、だ。
人間、物事が順調で、
自信満々の時が一番怖いという。
油断が生じるからだ。
念には念を入れて…

